連載・寄稿

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2020.06.08 News 連載・寄稿

「安倍政権が『支持率回復』のためにとるべき戦略は?」

日本人の価値観をめぐる連載、第30回のテーマは「安倍政権が『支持率回復』のためにとるべき戦略は?」です。

前回は、自民党に対して高い評価を与える人の割合がごく狭い範囲に限られており、政権や自民党に対する大方の支持はふんわりとした支持であることを説明しました。

同様の傾向は、今年4月末に行った新型コロナウイルスに関する緊急意識調査(一般財団法人創発プラットフォームと共同で全国の18歳以上の男女2098人を対象に実施、株式会社日経リサーチに実施を委託、年代割付後補正済み)でも指摘できます。この場合使用したパネルや調査会社が異なるので単純に比較はできないのですが、4月末に行った最新の調査の数字であるとお考え下さい。ここでも、自民党が高く評価されている割合は7%にとどまります。多少評価すると答えた人は30%。評価しない人は合わせて46%でした。

この政党評価度合いは、現実の政策に対する評価を大きく左右します。安倍政権が打ち出した新型コロナウイルスに対応する経済政策については、自民党評価度に賛否が左右されることが下のグラフから見て取れます。

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政策が気に入らないから支持しない、という場合ももちろんあるのですが、であるのならば30万円給付と10万円給付では政策の哲学が異なりますから、賛否の出方が違うはずです。安倍政権の打ち出す政策を評価するかどうかは、個人の政策理念や利害だけでなく、自民党をどれほど信頼し支持しているかによって異なることを示しているとはいえないでしょうか。米国のトランプ政権を支持する人が新型コロナウイルスの脅威を低く見積もり、民主党を支持する人が新型コロナウイルスの脅威を高く見積もりがちだという現象と、同じ理由です。何をするか、よりも誰がするかの方が重要だというわけです。

長期安定してきた安倍政権であっても、有権者の3割強のような強固な支持基盤は持たない。なぜ、日本ではそれほど政党所属意識が低いのだろうか。それこそ、本連載が扱ってきた日本人の価値観やその分断をめぐる一大テーマです。

最後に、新型コロナウイルス禍の被害を比較的抑えられている日本において、政権の支持率が下降している理由について、結論をまとめておきましょう。安倍政権は、8%程度の強固な自民党の支持基盤に強く刺さる、憲法や安全保障をめぐる価値観で求心力を得るとともに、経済成長や現実主義的な安保政策を望む幅広い有権者に支えられてきました。新型コロナウイルス禍に際しては、悲劇が拡大した各国のようにポピュリズム的手法をあまりとらなかった。幸い悲劇的事態は起こっておらず、とる必要もなかったからです。それ自体は良いことですが、支持率を急上昇させるような国民の凝集力が欠如しているなかで、健康に対しても経済に対しても先行きの不安が蔓延しています。当然、その不安を反映して支持率は下がる。星野源さんの動画を利用したり、ちょこちょことポピュリズム的手法をとっても、元来がポピュリズム的政権ではなくそうした手法が下手なので、岩盤支持層以外にはそっぽを向かれます。そこへ、検察庁法改正案などの従来からの政権不信に基づく不人気な要素が加われば、当然さらに下がるわけです。

つまり、安倍政権が支持率を回復しようと思うのならば、経済再開路線で成長を取り戻す王道に戻るしかありません。新型コロナウイルス禍によって、日本人の健康不安は極めて高い状態のままに据え置かれています。このまま放っておけば消費は戻ってこないし、第二波、第三波が来た時にもし同じ自粛や休業要請をくり返すとすれば、到底政府が支えきれない規模の倒産と解雇が続出するでしょう。そのときには、当然日本の国力は大きくそがれるし、経済成長に軸足を置いてきた自民党も、無策ぶりを露呈して弱体化せざるを得ません。

第二次補正予算では持続化給付金の対象拡大が図られるようですが、いずれにせよ、持続化給付金が倒産を防止する効果は、売り上げが激減してから3か月を超えると大きく減退することが分かってきています。となれば、引き続き病院に安易に押しかけない、感染予防に各自が気を付けるなどの衛生管理に配慮しながら、経済を本格的に再開をする以外にとるべき手段はない。安倍政権にポピュリズム的手法は向かないし、熱狂的な支持者も人口のごく僅かなのだから、変に人気取りをしようと考えるのはやめるべきです。いわゆる「お上」的な感じの悪さからくる不人気さは、甘受するしかありません。はやい話が、オーバーリーチをしようとせずに原点に戻れということです。

党内対抗勢力や、野党にとっての課題はまた稿を改めて考えて行きたいと思います。

文藝春秋digital【分断と対立の時代の政治入門】2020/6/8掲載