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2019.11.25 News お知らせ

「日本人の党派性の不都合な真実」

日本人の価値観をめぐる連載、第3回のテーマは「日本人の党派性の不都合な真実」です。

前回は、保守と革新の対立について、考察しました。ここで、はじめに取り上げた萩生田大臣発言に戻りましょう。

「身の丈に合った努力を」してほしい。それは、現状の機会格差を個人の能力によって乗り越えてほしいというメッセージと、「各自が分を知ることにより秩序を維持しつづける」というメッセージとが混然一体となっています。前者には、弱者に武器を与えようとしながら、効果のある英語教育を公立学校に行き渡らせられないでいる政策の不足があります。後者には、保守特有の秩序維持の観点からする思想が含まれています。

保守からの改革というのは、グローバル化に対応して国家としての競争力を身に着けるために、秩序を壊さずに能力とマーケットに基づいて切磋琢磨するモデルを取りがちです。それは保守の本質であるのだから、ある程度は仕方のないことです。革新派が政権を担ったならば、秩序維持よりも機会格差の縮小に重点をおいた政策となるだろう、というのが、一応の仮説です。問題は、日本人自身がどのように考えており、その他の政治勢力が抜本的な改革を担う能力と気概があるのか、ということです。

ここで、問うべき問いは、日本人は実力主義を信じているのか、日本人はどれだけ自助努力を是とし、どれくらいの弱者支援を政府に望んでいるのか、大学や高校の授業料を安くすることはどれだけの賛意を得ているのか、初等中等教育のレベルを上げることをどれだけの民意が後押ししているか、でしょう。これらにすべて答えることは難しいのですが、いくつか参考になるデータは提供できます。

弊社(山猫総合研究所)の行っている「日本人価値観調査2019」によれば、大学の学費は完全に無償化すべきではない、と答えた人の割合は全体の58.2%に上り(無償化賛成は32.5%)、自民党高評価層から低評価層まで、大きな意見の差が見られませんでした。また、多少の格差を生んでも経済成長は必要だ、と答えた人は全体の47.3%(反対の意見は40%)。ここは、自民党高評価層から低評価層の間で意見が分かれるところです。生活保護などの貧困対策にこれ以上予算を使うべきではない、と答えた人は全体の40.0%で、反対の45.8%を下回りますが、実は賛成と反対の分布にはさほど大きな党派性はありません。そして、一般的に、国の制度に頼る前にまずは自助努力が必要だと答える人の割合は74.0%に上りました(反対は16.6%。すべて年代補正後)。

ここから読み取れることは、日本人の党派性は、ゆるやかに経済的な左右対立を反映しているものの、具体的な設問となると必ずしも大きな差が生まれないことです。成長か分配かと聞かれた時に、成長を志向する人は自民党支持者に多く、分配を志向する人は野党支持者に多い。けれども、実のところは自民党支持者も富裕層や大企業など自分が関係のないセグメントに対する課税強化には賛成し、野党支持者も貧困対策や教育無償化にさほど熱心ではない、という不都合な真実が見えてくるのです。

三浦瑠麗3回目グラフ

つまり、言ってみれば政府はこうした民意に沿って動いているのであり、野党もそれに正面から対抗するような政策を打ち出す機運に乏しいということです。アメリカの民主党のように中間層への手当てだけでなく、教育の機会を確保し貧困層を底上げするという政策志向を積極的に打ち出すほどに日本は分断していないし、そのような革新主義も育っていない。そのうえ、改革派の革新勢力も少なくとも政界には明示的な形で存在しないということです。

では、改革派というのはどのようなものを指すのでしょうか。ブレアとか、クリントンとか、具体的な指導者と政策は思い浮かびますが、左派的な文脈からはそうしたリーダーはみな「新自由主義者」と粗くまとめて扱われていて、サッチャーやレーガンとのあいだに差異はないということになっています。本当にそうでしょうか。改革派の革新と改革派の保守は経済政策において距離が近づいてきていることは確かです。そもそも、二大政党の国において、イデオロギー的な二項対立が維持されているとしても政策が似てくる効果というのはこれまで指摘されていることです。次回以降は、有権者を分断する軸とは何か、それは一体どのように機能するのかについて取り上げたいと思います。

文藝春秋digital【分断と対立の時代の政治入門】2019/11/25掲載