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2019.12.23 News 連載・寄稿

「『自民』と『立民』 投票者の価値観を比較してみると……」

日本人の価値観をめぐる連載、第7回のテーマは「『自民』と『立民』 投票者の価値観を比較してみると……」です。

政治運動において、イデオロギーは求心力の中核です。イデオロギーが異なる人びとを結び付け、互いに連帯感を持たせる効果があるからです。もしも政治の本質が、対立する価値観そのものではなくて、単に「友と敵」という陣営認識であるのならば、その中身は極言すると何であっても良いということになりますが、政党は実際には様々な価値観を提示し、また掬い上げるので、それらの価値観に縛られます。

本連載の第4回の記事では、AさんとBさんという人物像を提示しました。Aさんは成功した国際派の事実婚の2児の母。Bさんは就職氷河期に大企業正社員になり損ねたフリーランスの独身男性です。彼らのような人は日本にも米国にも存在します。Aさんが米国に生きていた場合は、おそらく民主党穏健派の支持者となって人種差別批判や高額所得者への課税強化にもっと関心を持つだろうし、Bさんも同じく民主党を支持する結果として女性のエンパワメントが重要な課題であることを受け入れざるを得ないでしょう。それは、イデオロギーに基づく「やせ我慢」が、本音に打ち勝つという構造があるからです。

反対に、日本ではAさんとBさんはよほど政治意識が強いのでない限りは、ほぼ交差しないでしょう。日本のメディアは長らく中立的な立場を取り、公権力や権威に対して物申し、採点すると言ったスタイルで党派性を意識せずにやってこられました。有権者もその延長線上のような感覚でやってこられたわけです。

しかし、情報化社会の進展によって、様相は一変しています。大手マスメディア以外に情報収集・交換する場ができ、SNSの登場により個々人の意見が公開の場で晒されるようになったのです。人びとが直接意見交換をし、政治家もツイッターで一般人とやり取りをする。その結果として、政治家の方が有権者全体よりもイデオロギー化しやすくなります。SNSで政治的な発信をしている有権者はごく少数であるのに、政治家はそれを支持者の代表的意見だと勘違いしがちだからです。同じことが、政治家の個人後援会や支持組織との交流についても当てはまります。けれども、実際には有権者は政治家が日々触れ合う存在よりももっと広大で多様です。以下の図を用いて、有権者のイデオロギーについて考えることにしたいと思います。

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上の図は、弊社(山猫総合研究所)の「日本人価値観調査2019」において、2019年の参議院選挙の比例代表でどの政党に投票したのかという問いへの回答をもとに作成した価値観分布です。赤い点は自民党に投票した人、青い点は立憲民主党に投票した人です。

自民党は社会保守政党だと考えられがちです。しかし、左上のグラフを一瞥して分かるように、社会的価値観はバランスよく保守とリベラルに分散しています。反対に、経済的にはリアリズム寄りの有権者を抱えているということが言えます。米国の有権者が共和党と民主党できっぱりと価値観が分かれているのに比べると、示唆的です。

右上のグラフでは、その自民党投票者の上に立憲民主党への投票者を重ねて散布図を作成してみました。このグラフが示すように、立憲民主党は中道リベラルな傾向を示し、社会リベラル傾向のある有権者を多く惹きつけつつも、社会保守的価値観を抱えた有権者もそれなりに抱えていることが分かります。米国のように、経済ポピュリズムに大きく振り切れた有権者がいるわけではありませんでした。

実際には、立憲民主党は社会リベラル的価値観と所得再分配強化を強く打ち出してきています。伊藤詩織さんの性被害告発をめぐる一件では、元TBSワシントン支局長の山口敬之氏が安倍総理の評伝を書いた著者であることもあって、非常に政治化した激論がSNSで取り交わされています。参議院選挙の際には、自民党のみが消極的だった夫婦別姓導入の是非が大きな話題となりました。しかし、それはごく最近の動きであって、社会政策が価値観の定食メニューに入り、中心的な問題になる頃まで待たなければ、十分な集票効果を上げることができないのです。政党や政治家が価値観を打ち出すようになると、メディアや有権者の側もだんだんと党派化が進んでいく。現在の日本はそんな党派化の途上にあるのだろうと思います。次回は、外交安全保障と経済政策での価値観分布を図示化したものをお示しします。

 

文藝春秋digital【分断と対立の時代の政治入門】2019/12/13掲載

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