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2019.12.30 News お知らせ

「日本人の投票に影響する最大の要素とは? 」

日本人の価値観をめぐる連載、第8回のテーマは「日本人の投票に影響する最大の要素とは?」です。

前回示したように、立憲民主党は選挙で社会リベラルの票を取り切れていません。2019年参院選での比例代表への投票行動は、経済政策×社会政策をめぐる価値観では必ずしも綺麗に切り分けられないということが分かりました。確かに、経済政策に関わる価値観の平均点を取れば、自民党高評価層の方がより成長重視で、自民党低評価層の方がより分配重視です。しかし、参院選での投票行動と関連付けて一人一人の価値観分布を見たならば、自民党投票者も、立憲民主党投票者も、価値観がばらけているのです。

経済政策と社会政策の価値観だけで見ると、経済成長を重視する人は自民党に投票する可能性が高い。経済成長をそこまで優先度の高い項目と考えない人は最大野党の立憲民主党に投票する可能性が高いということが「確率論として」言えますが、その確率はさほど大きな差によるものではありません。

それは、経済問題と社会問題の陰に隠れて、投票に影響する最大の要素が他に存在するからです。弊社(山猫総合研究所)の調査では、過去2回の国政選挙の4回の投票行動において、もっとも自民党への投票の相関が高かった要素は憲法と安保をめぐる象徴的な価値観でした。より具体的には、日米同盟をプラスに捉えているか否か、憲法9条改正の是非、あるいは防衛費を増額することに賛成するかどうかです。

そこで、2019年の参院選における比例代表の投票先ごとに、経済×外交安保政策の価値観をめぐる分布を示した下図をご覧ください。

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ご覧のように、社会政策ではなく外交安保政策での価値観の違いの方が、より投票に影響していることが見て取れます。そして、立憲民主党支持者は外交安保でリベラル寄りの人が多く含まれています。

戦後日本においては憲法と安保をめぐる左右対立が硬直化し、陣営を超えた対話がほとんどできないような状況が続いてきました。それ以外の論点は中心的な問題にはなりにくかったのです。象徴的なのが女性問題であり、重要人物の女性問題に関する失言がメディアで問題視されるようになったのはごく最近の話です。

2019年の参院選の争点とされたのは、年金問題であり、消費税でした。有権者に重視する政策分野を聞いても、教育や医療、福祉などをあげるでしょう。しかし、これまで示してきたように、有権者の価値観は多くの分野でそれほど食い違っておらず、政策選好にも違いが出にくい。人びとが表向き重視すると答える政策が必ずしも投票の原動力となっているわけではありません。例えば、より福祉を充実させますと公約したからと言って、福祉重視と回答した有権者の票が惹きつけられるとは限りません。大前提として、安保、憲法の分野における価値観が、人びとを分断し、特定の政党に投票するときの判断材料として働いているからです。

日本には米国ほど急進的ではないが、十分な社会リベラルが存在します。しかし、安全保障における価値観の対立が激しいがゆえに、立憲民主党をはじめ野党は社会リベラルの層(リベラルおよびリバタリアン)を取り切れないのです。立憲民主党は、外交安全保障で中道リアリズム寄りの票も一部取り込めてはいますが、それは最大野党である立憲民主党が政権批判票の受け皿になりえているからだと思われます。しかし、現実には選挙活動の場において、演説やプラカードに日米同盟に対する懐疑的な表現や、「憲法改悪反対」と言った表現が躍ることで、安全保障リアリストの有権者を遠ざける効果を作り出しています。

安全保障で価値観が分かれることが正しいとか、あるいは間違っているとか言おうとしているのではありません。ただし、現実問題としては、回答を見ると安全保障リアリストが多数を占めるため、安全保障でリベラル票を惹きつけることを戦略とする限りは、政権交代は難しいでしょう。

次回は、比較的最近話題に上るようになった女性問題についての有権者の態度はどのようなものなのか、あらためて分析します。

 

文藝春秋digital【分断と対立の時代の政治入門】2019/12/30掲載