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2020.03.09 News お知らせ

「『新型コロナウイルス』で事態を悪化させるメディアと野党」

日本人の価値観をめぐる連載、第17回のテーマは「『新型コロナウイルス』で事態を悪化させるメディアと野党」です。

前回は、新型肺炎が呼び起こす恐怖が、かえって国民生活に対する政府の介入を要請してしまったこと、窮乏を耐える工夫に関心を費やすことで社会不安が押さえられ、その結果、科学的には不合理な政策でも支持されがちであるという構造を取り上げました。

そこにおいては、政権を監視し事実を検証するはずのメディアが、かえって国民生活への介入強化の動機を政府に与える役割を果たしており、事実上政策のバランスを保つためのカウンターの役割を果たしていない場合があるということです。先週は追加的に中韓からの入国者全員に関して14日間、自宅や宿泊先などで待機するよう要請する方針を決め、ビザ効力を停止することを決定しました。韓国や香港、マカオは従来からビザが免除されていますが、その免除措置も停止されることになります。

中韓からのビジネス往来客などが制限を課されることによって、事実上貿易相手のナンバー1とナンバー3の国との経済的な人の往来を一時停止することになります。経済に与える影響はとても大きい。

そもそも、新型コロナウイルスは潜伏期間が長いので感染も広がりやすいのですが、回復者も多く、高齢者や持病持ちの方に重症患者が集中する感染症です。高齢者が自由に出歩き、ハイリスクの病院や集団で利用する密閉型の施設を利用しつづけている以上、かかっても軽症者がほとんどである若者や子どもにだけ制限を課すという政府の方針には疑問を覚えざるを得ません。

入国制限で私が問題だと思ったのは、香港とマカオを中韓と同じ扱いにしたことでした。都市国家シンガポールや、同じく自立した都市、香港とマカオは、防疫に敏感です。幸い向こうでは事態が安定し、収束しつつあるのですが、いまさら、中国の中に香港とマカオを含めて入国制限を課す理由が分かりません。香港はいま街が落ち着きに向かい、徐々に制限を解いていこうとする局面に入っています。ここまで日本人に対して入国制限を課さないで踏みこたえてきてくれたわけですから、ここで相手の顔面を殴るような真似をする「理由」が分からないのです。

経済と人命を天秤にかけるなという声が聞こえてきそうですが、経済は命であり暮らしそのものです。経済が死に絶えてしまえば、それは日々の収入が途絶え、食糧が無くなるということであり、人びとの活動を規制することは、経済活動そのものを制限することです。

経済を止めれば人が死ぬ。それは可能性ではなく確実なことです。であるのならば、そもそも政策の目的は何か、ということを今一度整理して定義すべきではないでしょうか。感染者をゼロにすることはできません。そのような達成不可能な目標は目指すべきではなく、メディアもそうした期待値を煽るべきではありません。現に、インフルエンザや交通事故や肺がんによる喫煙者の死者は日々公表していないのに、新型コロナウイルスだけ感染者を発表し、別扱いをすることによって、あたかも感染者は一人も出してはいけない、というイメージが生まれてしまいます。これ以上何も対策を打てないのならば、むしろ消毒やウイルス防御だけ気を遣いつつ、日常生活に復帰する必要があります。危機感の感度を下げつつ、消毒作業だけは頑張るという解決策しかないのではないでしょうか。

では、政権を批判し、監視する野党の役割はどうなっているのでしょうか。実は、安全保障が絡む問題については、野党は常に微妙な立ち位置に立たされる傾向にあります。既に述べた通り、安全保障が絡む危機的事態においては、それが疫病であれ、震災であれ、戦争であれ指導者の求心力は高まります。そうすると、野党は協力しなければ無責任なイメージを与えるし、協力すれば政権の成功に手を貸してしまうことになる。したがって、野党のもっとも自然な動機は、もっと過激でスピーディーな対処を要求する方向に舵を切ることです。そうすれば、事態を軽視していることにはならないし、埋没する懸念もない、ということでしょう。

メディアの後手後手批判が一斉休校措置要請を生み出したように、野党の存在が日本政府の権力行使の拡大を生んだというわけです。

ここまで申し上げたことは、特に日本特有の事象であるとか、新型コロナウイルス特有の現象ではありません。現在世界中がパニックになっており、世界中のマスメディアや野党は事態を悪化させる方向にアクセルを踏んでいることでしょう。日本だけが特別な例外的国家になることができるとも思いませんが、やはり、冷静に経済に与える悪影響と、それが人びとの命と生活に与えるリスクを立ち止まって考えるべき時に来ています。

文藝春秋digital【分断と対立の時代の政治入門】2020/3/9掲載