お知らせ

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2020.04.28 News お知らせ

「二項対立で見失われた価値観を再発見した『診断テスト』」

日本人の価値観をめぐる連載、第25回のテーマは「二項対立で見失われた価値観を再発見した『診断テスト』」です。

先日公開した弊社(山猫総合研究所)の価値観診断テストは、ツイッターでトレンド入りし、12万回弱も試していただきました。同じ人で2、3回試された方がいるとしても、相当な人数に上ります。体験していただいた方々ありがとうございました。テスト自体は、この連載でご紹介してきた、2060サンプルの調査による4象限×2の価値観分布と同じ設問です。

通常、意識調査はさまざまな設問を同時に聞くので、クロス分析ができます。男女、年齢、職業、居住地域、年収、支持政党などによる違いが分かるわけです。また、年齢層もばらけさせてデータを収集し、人口動態に合わせて割り戻しという作業を行うため、今回のようにただ自由にどなたにでもテストを受けていただくというだけでは、クロス分析ができないうえ、そのような信頼度の高い分析としては使えません。

しかし、これほどの人数が体験してくださったことで、「大数の法則」が働き、少なくともインターネットユーザーやSNSユーザー(今回はTwitterとFacebookで告知を行いました)のなかでの代表性は得られました。

どうしてこのようなテストの無料公開をしたかというと、ひとつには、人びとは自分の価値観の集団内での位置づけを知ることで、安心したり、自己イメージが明確化されたりすると思うからです。発端は、周りの知人友人にこのテストのことを話していて、体験してみますか? と聞いたところ、大いに反応が良かったこと。もちろん、テストは人々の複雑な価値観や思想を二項対立の数直線上に位置付け、しかも3軸でそれを表わすもの。ですから、自己認識と食い違う部分は出てくるかもしれません。それでも、多くの人は古典的な経済的価値観の二項対立(分配重視か成長重視か)上に位置づけられますし、日本だと外交安全保障の二項対立(改憲派・日米同盟強化派か、護憲派・日米同盟解消派か)が存在します。そして、先進各国で大きな分断を創り出しているのが社会的な価値観です。

自分は保守である/リベラルである、という一つだけの軸で二項対立の自己イメージを持っていた人が、外交安保、経済、社会の3つの軸によって表現されることで、より精緻化したイメージに触れることができる。その結果、今まで抱いてきた単純な二項対立に対する違和感やズレの原因がわかります。

私のある友人は、ポピュリスト(経済的には分配重視、社会的には保守より)に位置付けられました。外交安保ではリアリストでした。

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日頃、彼自身は保守と自らを位置づけていたと思うのですが、経済ではより国家主導の政策を支持する分配重視の立場に少し近い考え方を持っていたわけです(ポピュリストという語感には聞きなれない違和感をお持ちの方もいると思うのですが、これは参考にした米国のVoter Study Groupによるサーベイの分類に従ったものです。経済的には“リベラリズム”としてしまうと市場重視の自由主義になってしまうからです)。

ある別の友人は、リバタリアン(経済的には成長重視、社会的にはリベラルより)で、外交安保ではリアリストでした。

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日頃彼の主張は外交安保や歴史問題に偏っていて、どう考えても保守だろう、と自分のことを認識していたのですが、社会的価値観に関してはリベラルな考えを持っていたことが分かりました。とりわけ、彼にとっては全体の分布の中では外周部分に位置することから、自分の価値観の組み合わせが大多数の人の平均とは異なる所にあること、しかしそのような思想を持っている人がほかにも少数いるのだということを発見したことが大きかったようです。「なんかほっとした」という感想を寄せてくれたのですが、そんな効果があったとしたら嬉しいことです。

さらに別の友人は、リベラル(経済的には分配重視、社会的にはリベラル寄り)、外交安保もリベラルよりでした。

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しかし、この場合経済的にはかなり中心に近い分配よりのところなので、多くの人の考え方と近いところにいるバランスが取れたものであるということが分かりました。そして、一般に自分のことをかなりリベラルだと思っていた彼ですが、社会政策では超リベラルな私よりもかなり中道寄りでした。彼自身のリベラル傾向が高かったのは、外交安保の分野だったのです。

政治や政治評論が二項対立ばかりを強調してしまうと、やはり見失われてしまうものがあります。違いを意識するとともに、友人であったとしても違う価値観がある、それでも仲が良かったりするということの意味を再発見して頂きたかったのです。

私が最初に自分で世の中に出回っている類似のテストを試してみたのはIDRlabs(Individual Differences Research Labs 2009-2020)の「政党座標テスト」(全部で36問)でした。しかし、そのときは設問が難しいのと、日本では使われないような表現、争点となりにくいものも取り上げられていることに違和感を覚えました。その後、米国のVoter Study Groupによる調査を参考に、日本独自の価値観の調査(25問)を設計しました。

本テストで重要なのは、すでに2060サンプルのサーベイを行ったことで、党派性が分かれるものとそうでないものを理解していたことです。例えば、米国との同盟強化については党派性がくっきりと浮かび上がりますが、英豪と軍事同盟を結ぶことに対する賛否には、ほとんど党派性は出ません。事前のサーベイを行ったことにより、一般向けのテストを公開するにあたって質問数を絞ることが可能になりました。手を替え品を替え、50問も60問も聞いているようでは、回答者も疲れてしまいますし、設問が専門的すぎれば少数の人しか直感的な答えを出せなくなり、研究者の自己満足になりがちです。
今後の課題としては、社会的価値観についての新しい傾向を取り入れていくことだろうと思います。党派性が浮かび上がるもののなかでも、調査から外したものがあります。社会政策とも経済政策とも位置付けにくいのが、現在ある原発の稼働の是非をめぐる問題です。環境問題に対する関心は日本ではまだ低く、人びとの価値観の根幹には入らない場合が多い。いま主要な社会政策上の課題となっているのは、女性の地位や性別役割分業、児童への体罰、同性婚をはじめとするLGBTの権利、外国人への待遇などだからです。しかし、おそらく数年内には日本でも社会的価値観の差が広がり、社会政策に関する設問設計を考え直す必要が出てくるのではないでしょうか。

次回は、いよいよ一般公開したテストの結果をお示しします。

文藝春秋digital【分断と対立の時代の政治入門】2020/4/2⁷掲載