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2022.12.03 News リリース

BA.5はピークアウトしたか?――QUICK Data Castが新型コロナウイルス感染症の第8波ピーク予測(東京都)を提供します

弊社代表三浦瑠麗が参加する民間有志チーム、CATs(Collective Analysis Teams, [旧称Collective Analysis Tracking System])は、株式会社QUICK(本社:東京都中央区、代表取締役社長:髙見信三氏、以下「QUICK」)と協力し、QUICK Data Castのサービスの一環として、第8波のピークアウト予測を行います。

これまで、CATsは日本経済団体連合会(以下「経団連」)が2021年11月に発表した提言「感染症対策と両立する社会経済活動の継続に向けて」に協力し、人流データと感染者数、緊急事態宣言の関係性などを分析したほか、QUICKと協力し、第6波、第7波のピークアウト動的予測をリアルタイムでパブリックに提供してまいりました。

QUICK Data Castは2022年6月に発表されたサービスで、幅広いビッグデータを活かし、日本経済の見通しを分かりやすく提供する有償サービスです。新型コロナウイルスに関しては、感染症法上の分類として二類から五類への変更がまさに検討されているところですが、足元では第8波が始まったというニュースも報道されています。経済社会活動が必要以上に委縮してしまうのを避けるため、QUICK Data Castは感染症対策と経済の両立に関しても引き続き貢献すべく、動的予測を最新の状態で提供します。

これまでの動的予測と同様、CATsの予測は、人々のちいさな行動変容や、ウイルスの季節的なふるまいなどさまざまな要素が複雑に絡み合い、感染が拡大・縮小する新型コロナウイルスの特徴に注目し、ビッグデータ分析とAIを組み合わせて分析を行っています。日々変わる人流や飲食店の予約状況、オンラインの検索やSNS等が映す市民の心理などを変数に加え、少数の限られた要素に過大なウェイトをおくことなく、動的予測を算出して提供します。本日提供する第8波の動的予測は以下の通りです(Figure 1)。

Figure 1 第8波の東京都新規感染者数動的予測(2022年12月2日時点)

各メディアでは第8波の到来が叫ばれていますが、足元では感染は急増せずゆるやかに推移しており、変異株の内訳をみると、BA.5がピークアウトしつつあることが窺えます。しかし、各国の先行指標を見る限り、他の変異株の存在感が大きくなってきており、日本もいずれ第8-2波ともいうべき波に突入するであろうことが予想されます。ただし、現時点では第8波の最大ピークは第7波と比べて突出した違いは予見されず、依然として日常を継続しながら乗り切れるレベルであると予測しております。

CATsのピーク予測は、第6波でもピークの時期、波の高さを正確に予測し、大まかな波形も現実と合致していました(Figure 2, 3)。

Figure 2 第6波の東京都新規感染者数動的予測(2022年1月31日時点)

Figure 3 第6波の東京都新規感染者数動的予測(2022年3月4日時点)

しかし、Figure 3に見るように、第6波は正規分布のような形で落ちていくのではなく、テールが長い形でゆっくりと落ちていきました。そのうえ、4月と5月には新規感染者数が増加しています。これはなぜでしょうか。人々が再び活動し始めたから感染がぶり返したのでしょうか。ここで想起したいのが、かつて行われた、感染による被害と経済被害をバランスさせるにはどうしたらよいかという議論です。2020年から2021年まで、緊急事態宣言をいつ解除すべきかということがたびたび論点となってきました。そのなかで比較的広範に受け入れられたのが、緊急事態宣言を早く解除すると感染がぶり返し、はやく大きな波が来てしまうため、結果的に緊急事態宣言を再び発出せざるを得ず、経済被害はかえって大きくなるという経済学者から提出された議論でした。しかし、これは人流と感染流行との関係を推定するにあたって古典的なSIRモデルに依拠したもので、現実の感染の推移とは異なっていました。例えば、2021年夏の第5波が収束したのち、人流が回復しても新たな大きな波は来ませんでした。同じことが、全ての波について言えます。では、なぜ、特定の波に関しては感染がぶり返しているように見えるのか。それを解くカギは、変異株の存在にあります。

Figure4は、第6波の「ぶり返し」が、実は新たな変異株によるものであることを示しています。

Figure 4 第6波と変異株

第6波は、BA.1が大半を占める、いわば「単色波」でした。しかし、そのあとに「ぶり返し」があるように見えます。これはいわば「マーブル波」で、数多くの「オミクロン・ファミリー」の変異株が到来したために起きています。人流が増えたことによる効果だけで説明できるわけではないのです。感染が増えると、すぐに人流増加のせいにする論調がみられますが、より感染力が強かったり、従来の免疫あるいはワクチン効果を回避したりする変異株が到来しない限り、一度ピークアウトした波が「ぶり返す」ことは起きていない、ということをこの3年間の学びとして押さえておくことは肝要です。

したがって、ピークアウト予測さえ正確ならば、次にモニタリングすべきは新たな変異株の有無、そしてその「脅威度」であり、第5波のときのように、徒に緊急事態宣言やピークアウト認定を引き延ばすのは害多くして益がないと言わざるを得ません。

CATsの予測は、豊富なビッグデータとAI予測を用いたものですが、そもそも新規感染者をあぶり出す検査は日によって大きく変動します。例えば、大雪や台風、3連休などがあると検査数が大きく変動し、検査の過少と過大が時間差で生じます。特異な変動がないときでも、一般に土日は検査が少ないため、月曜日の発表数は少なく、水、木曜日の発表数は多いという特徴が存在します。

日々の新規感染者数を見ているだけで、感染の動向を予期しやすくなるコツをFigure 5で説明しましょう。

Figure 5 ピークアウトと月曜日

月曜に新規感染者の発表数が少ないと述べましたが、感染が急増しているときには、7日間移動平均からの月曜日の発表数の乖離は少ないことが上昇局面にあるグラフから窺えます。しかし、感染がピークに近づくと、月曜日の発表数が移動平均よりも下回り始め、ピークアウトしてからは大きく下に下がっていることが見受けられます。7日間移動平均は常に「いま」の状況よりも1週間前のデータを反映しているため、より早く動向を見極めたいときには月曜日の発表数に注目すればいいのです。

動的予測は、こうした周期的な変動ではない、誤計上などの問題が露見した時、いち早く反映し、補正することができるという点においても優れています。第7波の動的予測において、CATsは東京都の感染者数に他府県の感染者が計上されているという報道を受け、いち早く対応し、予測を補正することが出来ました。その結果、きわめて現実に近い予測を提供することが可能になっています(Figure6, 7)。

Figure 6 第7波の東京都の新規感染者数動的予測(2022年8月1日時点)

Figure 7 第7波の東京都の新規感染者数動的予測(2022年9月20日時点)

一方で、こうした動的予測が一般に公開されていなかった第5波においては、2021年8月25日にはピークを越えたことが明らかになっていたにもかかわらず、実際に分科会がそれを正式に国会で認めたのは約3週間後の9月16日でした。そのとき、東京都の新規感染者数の7日間移動平均は、ピーク時の2割水準にまで下がっていました。第6波、第7波では、ピークアウトという言葉やそれについての観測がメディアにも広まりましたが、第5波にはまだまだピークアウト自体が語られることが少なかったという事実は覚えておく必要があります。

第8波においてはこの三年間の学びを活かし、新型コロナウイルスに対して一般的なインフルエンザと同様の警戒体制で臨み、社会経済活動を抑制することなく乗り切ることが期待されます。また、各国の動向を見ればもう一段踏み込んで社会の完全なる正常化を行っていくことも必要であると考えます。そのためには、エビデンスに基づき過去のコロナ禍対策を検証しつつ、常に新たな知見を共有していくことが重要です。第8波の動的予測提供を通じて、そうした議論を喚起してまいります。

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*経団連提言の参考資料への分析協力はこちらをご参照ください。