リリース日中韓意識調査

2024.02.23 Reports リリース日中韓意識調査

日中韓意識調査2014~2023分析レポートを公開しました

山猫総合研究所は、日本、中国、韓国の三か国の国民の対外認識や消費行動などについてインターネットパネルを利用した調査を行いました。

最新の調査は、20代から60代の男女各国2000人を対象に、2023年1月に実施されました。それぞれの国で多様な属性に基づく意見の差を明らかにするため、年代、居住地(二段階)、最終学歴(大卒以上、大卒未満)の3軸で定義されるセルごとに100サンプルを確保したうえで、国勢調査等のデータに基づき割り戻しをして集計する手法を取っています。過去の調査に関して、2014年11~12月に行った初回調査(東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニットにて外務省「外交・安全保障調査研究事業費補助金」の助成を受けた研究事業の一環として実施)を除く、2017年12月実施分、2019年12月-2020年1月実施分、2023年1月実施分については山猫総合研究所が行っています。

1.中国人の対米感情は悪化をたどり、日韓は接近

中国国民の対米感情は悪化

本調査を開始した2014年は、米中関係はまだ比較的良好な時期でした。東アジアについては、むしろ地域諸国のあいだに生じる摩擦を問題視する意見の方が主流であったといえるでしょう。米中関係が悪化したのはオバマ政権の末期になってからです。この頃、中国人回答者の対米感情は、ポジティブ認識が大幅に優位でした。イメージ調査では、米国に対する多様な良いイメージがほとんどすべて高く出るなど、憧れともいうべき傾向が顕著でした。両国間に懸案が生じても、米国の産品やサービスの不買運動をする中国人はさほど多くはありませんでした。当時は、歴史問題等を抱えている日本に対する感情の方が悪かったのです。

しかし、この8年余りの間、米中関係は急速に悪化していきます。開始時に比べて米国に対する強いネガティブ感情を持つ人は4倍以上に増加しました。2023年調査ではポジティブとネガティブが拮抗し、二極化しています(p.9)。調査開始時に7割強あった対米好感度は5割に低下し、信頼度も5割を割り込むまで低下しています(p.16)。米中貿易戦争、香港問題、コロナ禍、台湾問題などによる米中関係の悪化を反映していると考えられます。

中国人の多くは依然として米国文化を積極的に消費していることも確かです(p.108)。回答者の中では、高収入層、海外経験のある層、海外とビジネス取引関係がある層で対米好感度が高く、良いイメージが持たれています(p.24, 33, 56)。年代別で見ると、米国に良いイメージを持っているのは60代が多く、40代が悪いイメージを抱いています。20代の若者の中には米国の自由さ、便利さ、おおらかさに惹かれている人が多いこともわかります(p.56)。また、米国とのビジネス取引関係が今後最も増えると答えた人のうち、9割近くが米国に好感を抱いていました(p. 33)。今後、もしも米中が相互に制裁措置をエスカレートさせ続け、幅広いビジネス取引に長期的な影響を与えるようであれば、そこから利益を得る層が減り、米国の好感度は如実に下がっていくのではないかと考えられます。

日韓国民の対米感情はプラスに

これに対し、米国の同盟国である日韓の対米感情はポジティブが極度に優位で安定しています(p.9, 16)。韓国については、対米好感度、信頼度共に過去最高です。ロシアによるウクライナ侵攻は、伝統的な国家間戦争をセンターステージに再び押し上げ、西側同盟諸国の認識を大きく変えました。ロシアによる軍事侵攻から約1年たったところで行われた2023年の調査では、米韓同盟が自国の利益になると考える人が、リスクとなると考える人を初めて上回りました(p.103)。経年変化で見ると、その効果は明らかです。韓国では、米国との関係性を「同盟国」、「友好国」などと肯定的に表現する人も劇的に増え7割を超えたほか、米国との利害関係をめぐる指標も大きくプラスになっています。

日本に関しては、日米同盟が全体として自国の利益になるとの認識までには至っていないものの、米国との関係性や利害関係の指標は2019~2020年に比べると回復しています(p. 104)。米国は近年、同盟国に防衛費の応分負担を求めてきました。「アメリカ・ファースト」で自国中心主義を掲げ、同盟国の対米軍事依存を梃子に経済への圧力も辞さなかったトランプ政権時代は、米国と同盟国との軋轢が目立ちました。Pew Research Centerをはじめ各種意識調査でも、対米好感度が各国で低下したことが指摘されました。しかし、バイデン政権になってから関係は改善へ向かいます。ウクライナ侵攻の影響もあり、アジアにおける米国の主要な同盟国である日本と韓国で、米国への信頼度が増したことは特筆すべきです。秋に米大統領選が控えている2024年。このトレンドにどのような影響があるのかを注視しなければなりません。

米国に良いイメージを持っているのは、韓国では海外取引関係が多い人や海外在住の家族や友人がいる人、公務員などで、日本では、自らや家族に海外経験がある層、高収入層、大卒以上、公務員などです(p.24, 31, 40, 57, 58)。韓国と日本では、対米感情を良化させる要素が少しく異なることが分かります。韓国のほうが日本よりも外国移住に積極的で、少数のグローバル企業など極端にグローバル化が進んでいる層とそれ以外の間で、グローバル/ローカルのライフスタイルや価値観が分断されている可能性は高いでしょう。韓国では保革勢力が拮抗しており、保守派に根強い親米傾向があることも影響しているかもしれません。40~50代に革新的な人が多く、60代に保守的な人が多いということが各種世論調査からわかっているのですが、本調査でも60代が米国に良いイメージを持っており、40~50代の方が米国に良いイメージが少ないようです(p.24, 57)。

日韓相互の感情は最悪期を脱した

韓国の新大統領就任後、日韓関係は改善に向かい、最悪期は脱したと言えるでしょう。本調査を時系列でみると、2回目調査(2017.12)時点では韓国人の対日感情はかなり良化傾向にありました。ところが、3回目調査(2019.12~2020.1)時点では7割以上が日本を嫌いと答えるなど、最悪期を迎えます(p.13)。2023年の直近調査では回復傾向を見せています(p.6, 13)。しかしながら、全体としては依然としてネガティブ感情がポジティブ感情を大幅に上回ることは事実です。日本に強いネガティブ感情を抱く層は4割程度存在し、マイルドなネガティブ感情を抱く人まで含めると6割を超えます。

なぜ、韓国人から見て日本はそれほど好ましくなく映るのでしょうか。韓国人から見た日本のイメージを探ってみると、「清潔である」「親切である」というイメージが強いことがわかりますが、清潔であるから好きになるという思考回路はあまり一般的ではありません。逆に、好意との相関がかなり高い、「友好的である」「信用できる」という日本イメージは相対的に低いのです(p.51)。この二つの指標が平均よりも高いのは、20代の若者や、家族が海外に住んでいる人などですが、海外との取引関係を通じて日本が信用できると感じているであろう人々もいます。国や地方の政府機関に勤めている人は日本が「親切である」「友好的である」と感じる割合が比較的多い。これも好感度にプラスに働く材料です。しかし、これらの人々が人口に占める割合はごく一部です。プラス材料としてはそこまでではないが、好感度にまだしも結びつきやすい「親切である」というのが、日本に対して全般的に形成されている良いイメージです。現在の日韓関係における外交上の懸案に関連した不買行動等に関しては、3年前よりも減ったものの、依然として半数程度の人が何らかの抗議を行ったと答えていることが分かります(p.88)。

韓国社会一般に日本に対する良いイメージが広がらない背景には、日本との接点が少ないこともあるだろうと考えられます。その証左に、韓国人回答者のうち日本とのビジネス関係が深いと答えたのは6%ですが、そもそも仕事で海外取引がある人に絞っても、日本との取引が今後最も増えるだろうと答えたのは僅か2.5%にとどまります(p.39)。文化消費についてみても、映画やドラマ、音楽などの日本文化は米国や欧州の文化ほどに消費されていません。日本文化はかつてほど韓国にアピールがないのです。とはいえ、20代から40代に限定すれば、欧州の文化よりもまだ日本文化の方が志向されているようです(p.110-111)。

日本人の対韓イメージでも、ポジティブ感情が増加し、ネガティブ感情が減少する良化傾向がみられます。とはいえ、こちらも依然としてネガティブ感情がポジティブを上回る状態であることに変わりはありません(p.8, 15)。主に若い世代が韓国に好感を抱いており、20代に至ってはおよそ6割が韓国を好きであると答えますが、年代が上がるほど韓国に対する好感度が減少します(p.23)。職業的な韓国との関りも薄くなっています。日本の回答者のうち、韓国との仕事上の取引が今後最も増えると答える層の韓国に対する好感度は8割を超えますが、海外との取引がある人のうちの僅か1.2%にすぎません(p.30)。これでは、根源的な関係良化はなかなか見込めないでしょう。

日本人が韓国に対して抱いているイメージを分析すると、「友好的」「信用」「親切」などの要素が好意との相関が高いのですが、いずれのイメージもいまだ広がりがありません。中でも「信用」のイメージは最も低いことがわかります。「エネルギッシュである」というイメージは強いのですが、この要素の好意との相関は相対的に低いのです(p.47)。一方で、日本人の回答者の中では韓国との外交上の懸案に関連した不買運動等を行う人は従来から少数派であり、現在では9割以上の人びとが何の抗議も行わなかったと答えています(p.98)。文化消費に関しては、韓国文化は比較的存在感がありますが、主に若年層に消費されていることが分かります(p.112-113)。

日韓関係には外交上の懸案がつきものですが、懸案の存在は関係悪化を食い止められない理由を説明するものではありません。今後の日韓関係に関しては若年層が良化に向けた最大の希望であるものの、両国のビジネス上の取引関係が希薄化していることが根本的な問題であることが窺えます。時の政権によって日韓外交がふたたび躓く可能性は捨てきれません。

2.米中対立は陣営化を促進するのか

対中関係は米中対立時代の影響を色濃く受ける

日韓の接近は、米中対立時代の到来を受け、米国の同盟国同士が接近する機運が生じたことも背景にありました。では、米中対立は旧西側、旧東側陣営の対立を復活させ、陣営化を促進するのでしょうか。本調査の経年分析を見る限り、日中関係に関してはそうした傾向が窺えるようです。

中国の対日感情は2014年時点ではネガティブが大幅に優位で、経年でポジティブが増加していましたが、2019-2020年からはネガティブも同時に増加し、直近ではポジティブとネガティブが拮抗する結果になりました(p.6,13)。また、日本に対する信頼度も直近の調査では落ちています。年代別では愛国教育の影響が残る40代が最も対日感情が悪く、高齢層と若年層で対日好感度が比較的高いことが分かります(p.21)。ぱっと目を引くのは、高所得世帯の対日好感度が8割近くあることです。海外との取引関係がある人のうち6割近くが日本との関係が深いと答えていますが、その層の対日好感度は8割を超えます(p.21, 34)。米中対立の激化で日中の取引関係が減っていくと、個人的利益に基づいて生じる親近感や好感度も減っていく可能性が高いと思われます。中国の回答者の対日イメージは、建前として回答者の平均値が高く出る要素ほど、本音としての好感度に与える影響が少ないという不幸な構造にありますから、放っておけばよくなるというような関係ではありません(p.51)。

日本の対中感情は2010年の尖閣諸島海域での中国漁船拿捕事件後に最悪期を迎えました。本調査においては、時とともに若干良化しつつありましたが、直近の2023年調査では悪化しています。この間、米中貿易戦争やコロナ禍をめぐる対立、そして香港デモなどさまざまな要因が重なって米中対立時代へと入っていったことが大きいと考えられます。日本では、対中感情は高齢者になるほど悪化します。これはかつて世界第二位の経済大国であり、中国に対して優位な立場に立っていた日本ならではの現象ではないかと思われます(p.22)。つまり、かつての栄光が現在の大国化した中国へのネガティブな感情に繋がっているのではないかという仮説です。それを裏付けるものとして、好感度に結びつきうる様々なイメージを見てみましょう(p.43, 45)。日本の回答者の中で中国に対するイメージで比較的高い平均点が与えられるものは、大国や成長のイメージに合致する「強い」「エネルギッシュである」の2つです。しかしながら、この二つのイメージは好感との相関が最も低いのです。中国の強さに対する認識は、様々なプラスの要素のイメージの内で好感からもっとも遠いものなのです。

また、日本の視点に立つと、中国との深い経済関係は対中感情を十分に良化させるに至っていないという残念な特徴が挙げられます(p.29)。日本の回答者の対米感情と比較すると、その違いが際立ちます(p.31)。同盟国である米国に対しては、取引関係に関わらず一般的に高い好感度が形成されていますが、中国に関しては利益に基づく良化傾向は多少あるものの、中国との取引で利益を得る層に限定しても、好感度は3割以下にしか届かないからです(p.29)。

中韓関係はどうでしょうか。中国の対韓感情はそこまで悪化しておらず、比較的高い水準を保っていますが(p.8, 15)、韓国の対中感情は悪化の一途をたどっており、好意度、信頼度ともに経年でみると現在に向かって最悪の状態に近づいていることが分かります(p.7, 14)。近年の中国の振る舞いが韓国国民の対中感情にネガティブな影響を与えているからでしょう。韓国の回答者の中で中国との取引がある人、取引が増える見込みがある人に限定しても、良化傾向はさして見込めず、最悪とも言うべき対中感情が窺えます(p.38)。中国の回答者の経済取引関係に応じた対韓感情の傾向と比べると、その差は歴然としています(p.35)。経済関係による利得では乗り越えられない構造的な問題があると考えた方が方がよいでしょう。韓国の対中イメージと好感との相関をあらわした分布図を見ると、完全な右肩下がりになっており、不幸な関係の構図そのものです(p.43)。属性別の回答者からみた韓国の対中イメージは、中国に接する機会があればあるほど経済のダイナミックさや国力を意識するが、それは好感にはつながらないということが分かります(p.44)。反対に中国の回答者を属性別にみると、良い対韓イメージは海外経験や収入の高さに影響を大きく受けていることが分かります。

ここから見えてくるのは、中国が豊かになるにつれ、どんどん海外経験や取引経験が増え、かつての内向性を捨て外国に親しみや魅力を覚える人々が増える一方で、彼らに最も近い隣国である韓国はかえって親米に傾斜し、中国に異質さを感じているという構図です。中国は自己のイメージをあまり客観的にとらえられていないのではないかと感じます。

対露感情は陣営で明確なコントラストに

陣営化のもう一つの観察ポイントは、ロシアとの関係性です。ロシアのウクライナ侵攻は、西側の制裁措置を引き出します。しかし、制裁への見解をめぐり、西側の中核的諸国と、中国、インドやその他新興国とのあいだに隔たりを生みました。日本や韓国の人びとは、元来それほどロシアに対し好感をもっていませんが、2023年調査時点でともに対露感情が大幅に悪化しました。日韓両国は、ロシアに対するネガティブ感情がポジティブ感情を極度に上回る点で共通しています(p.10, 17)。信頼度においても好感度においても、強いネガティブ感情を持つ人がこの3年間で圧倒的に増えました。ロシアを絶対信用できないと答えた日本の回答者の割合は4割を超え、韓国でも3割近くに及んでいます。

日本も韓国も、ともにロシアに対するイメージのうち多少なりとも肯定的なものは「強い」のみにとどまり、国際的なルールを守らず、平和的でなく、自分たちと似ておらず、信用できない国として捉えていることが分かります(p.60)。

反対に、中国の対露感情は2014年調査時点からポジティブ優位であったものの、経年でポジティブ感情がさらに上昇し、2023年調査ではポジティブ感情が極度に優位な状態になっています(p.10, 17)。好き、大好きと答えた人の割合は27%から49%へと増え、マイルドなポジティブ感情まで含めると、8割以上の人がロシアを好きだと答えています。注目すべきは、トランプ政権が誕生して米中対立が始まった2017年以降の変化です。それまで、好感度も信頼度も各回答選択肢の割合が比較的安定していたものが、大好き、とても信頼している、などのもっとも強い肯定表現で答える回答者が大きく増えました。

中国の回答者からするロシアのイメージは興味深いものです。数あるプラスのイメージのうち、最もロシアへの好感との相関が高かったものは「信用できる」でした。「友好的である」「寛容である」がそれにつづきます。まさに陣営化された世界における「味方」のイメージであり、中国の対外的な振る舞いや内政に口を出してくる米国と比べて、ロシアは内政不干渉の価値相対主義的をとる友好国という印象を持っていることが窺えます。中国の回答者を属性別にみると、ここでもやはり海外経験、そして収入の高さがものを言うことが分かります。また、年代的に見ると60代以上、続いて30代がロシアに対する積極的にプラスのイメージを持ちがちであることが分かりました。

結論

2014年から始めた日中韓意識調査ですが、この10年間に激動した国際政治と連動して、一定の変化を確認することができました。中国の台頭と米中対立時代への移行で陣営化が進んでいき、ウクライナ戦争はその傾向をさらに加速しました。日本の対中感情の悪化は米国よりも早い時期から起きています。それは東アジアに位置する日本が、中国の軍事的、経済的な対外進出による軋轢を米国に先駆けて経験する立場にあったためであり、歴史問題を含めた固有の歴史的文化的経緯によってのみ生じたものではないことが浮き彫りになりました。

かつては、北東アジア諸国間の外交摩擦と相互の厳しい国民感情を指して、経済的相互依存による平和創出効果の例外事例ではないかと捉える研究者も少なくありませんでした。歴史問題に根差した相互不信が友好関係の構築を妨げているとする見方です。しかし、本調査を通じ、東アジアにおいても経済的相互依存により友好感情が創出され、信頼醸成の効果があることを確認できました。ただし、対外貿易に従事してそこから利益を受ける層が国によってはごく限られているという問題点があります。各国によって異なる投資ルールや貿易の態様、産業構造によって実益が感じられにくい取引関係にあることも、経済的相互依存の効果が中途半端にとどまる原因の一つでしょう。より根本的な原因は、中国が政治的経済的に異質な存在のまま、急速に海外へと勢力を広げていったことです。

中国が各国と重層的な経済的・文化的相互依存関係を築く前に、異質性や脅威の認識が醸成されてしまったからです。中国の経済進出あるいは軍事進出が日本国民に与えている心理的影響は大きく、とりわけ昔の中国を覚えている高齢世代の対中感情はよくありません。経済的相互依存や文化交流の力は決して小さくはないのですが、非民主的な体制を取る中国側の経済セクターの存在感や発言権はあくまでも限定されています。したがって、交流を深めても物事が根本的に解決されるわけではありません。習近平体制のもとで経済への政治統制が強化されたことで、中国の異質性がもっと際立つ可能性もあります。

隣国に対する国民感情が悪い理由には、歴史問題やナショナリズム、先進国の自信の喪失だけでなく、構造要因としての陣営対立が影響しています。日本においては今後、対中貿易による果実が米中貿易戦争の過熱で毀損するにつれ、さらに対中感情が悪化するものと思われます。台湾問題に関しては中国が日本をアクター未満の存在として扱い、門前払いをくらわすことでさらに日本を米国寄りに「押しやる」効果もあるでしょう。中国は自らの振る舞いが与えている効果を十分に認識できないでいるのです。

ウクライナ侵攻は従前から生じていた陣営化の効果をさらに強める結果をもたらしています。日韓両国はかつてのような躊躇いを見せずに親米路線へと傾斜しています。中国は反対にロシアに対する好感や信頼を高めました。とはいえ、こうした二極構図のなかでインドのような国がどこに位置づけられているのか、少なくとも意識調査上ははっきりと見えてきません。そこが、単純な二極構造とは呼べない所以です。

東アジアの平和と秩序ある発展のためには、有事は何としても避けなければならず、陣営相互の脅威認識の改善に取り組まなければなりません。軍拡競争の過熱や相互不信も問題ですが、「台湾問題」という具体的な発火点が存在していることが大きいでしょう。中国政府の行動を制御することは困難であり、今後様々な衝突リスクが予想されます。

日本が取るべき選択は、こうした陣営化が進んでいく現状を踏まえ、有事を避けるために安全保障強化の努力と信頼醸成、危機管理を怠らないことです。加えて、中国の自己認識が修正に向かうよう適切なメッセージを発するとともに、相互の国民間の信頼関係の向上に向けて努力すべきでしょう。(2024/02/23)